キッチンカーで営業を始めようとする時、移動販売車にばかり意識やお金が行きがちですが、仕込み場所の準備を忘れてはいけません。
2021年の法改正により要件を満たしたキッチンカーの中でも仕込みができるようになりましたが、メニューや営業地によっては事前に仕込みが必要な場合もあります。今回は、キッチンカーでの営業をするにあたって必要になることの多い仕込み場所について説明していきたいと思います。
保健所に電話して直接確認したどこにもない情報も記載していますので、ぜひ最後までお読みください。
1.キッチンカーの仕込み場所に関する基礎知識
仕込み場所というのは食品を調理するにあたって一次処理をする場所という意味です。店舗のある飲食店であれば、店内のキッチンで仕込みを行うことができますが、キッチンカーの場合は違います。
キッチンカーで調理営業をする場合、メニュー・キッチンカーの厨房設備・営業地域によっては、一次処理となる仕込みは別の場所で行わなければならない場合があり、仕込み場所についても保健所の許可が必要な地域もあります。
キッチンカーで販売するメニューの仕込み場所について、まず知っておくべき基礎知識を紹介します。
1-1.仕込み場所が必要な地域と不要な地域がある
キッチンカーで販売するメニューの仕込みをするために、飲食店営業などの営業許可を取得した「仕込み場所」が必要な地域と不要な地域があります。例えば、実際に2023年3月に君津保健所(千葉県木更津市)に電話して確認したところ、東京都は「仕込み場所」が必要だが、君津保健所では「仕込み場所」を準備することを推奨しているものの、必須ではないとの回答をもらいました。
したがって、千葉県内の君津保健所が管轄する地域で営業する場合には、自宅などの住居の台所で仕込みを行っても問題ないようです。このように隣り合った東京都と千葉県でも要件が異なるので、Webや他の人からの情報を集めるよりも、まずは自分が営業する地域を管轄する保健所に電話して営業許可を取得した「仕込み場所」が必要かを確認しましょう。
1-2.食品衛生面のリスク回避のために必要です
キッチンカーで販売するメニューを調理する工程のうち、材料の下ごしらえのことを「仕込み」と呼びます。料理に使う食材を切る、下味を付ける、さらに冷凍食品を解凍しておくことも仕込みに含まれます。焼き鳥用に鶏肉などをあらかじめ串にうっておくのも仕込みの一つです。
仕込みの工程では、生肉や鮮魚などを切ったり、クレープなどの生地作りのために粉類と液体を混ぜたりする作業が生じます。前者では食中毒の原因となる菌が付着・増殖する可能性があり、後者では異物が混入する可能性が発生します。
こうした仕込み工程における食品衛生上のリスクを回避するために、衛生管理を徹底した施設で仕込みは行うことが求められ、この要求を満たすためには仕込み場所が必要です。
1-3.どこまでが仕込み?定義は保健所に確認する
一般的に「仕込み」は先ほどもお伝えした通り、調理工程の中で材料の下ごしらえのことを意味します。例えば、キッチンカーで販売するカレーを調理する際には、肉・野菜(ジャガイモ・ニンジン・タマネギなど)をカットする工程やオリジナルスパイスを調合する工程などは「仕込み」に該当するでしょう。
その後の、材料を炒める・煮込む・スパイスを加えてさらに煮込む、という工程のどこまでが「仕込み」に該当するかは保健所によって解釈が異なる可能性があります。したがって、実際には自分が販売予定のメニューの調理工程の中でどこの工程までが「仕込み」にあたるのかは、自分が営業予定の地域にある保健所への確認が必須です。
1-4.200リットルタンクを積めばキッチンカーで仕込みできる
2021年6月の改正食品衛生法の施行後は、47都道府県のどこでも200リットル程度の給排水タンクを設置したキッチンカー車内での仕込みが可能になりました。
ただし、キッチンスペースでの仕込みがどこまでできるかは、都道府県によって解釈が異なる可能性があるので、営業予定の地域を管轄する保健所への確認が必要です。
軽トラックサイズで仕込みができるモデル
キッチンカーの中で最も人気なのが軽トラックサイズのものです。軽トラックサイズだとキッチンスペースも限られるので、搭載する給排水タンクのサイズは40Lまたは80Lが主流です。したがって、仕込み場所として必要な200L程度の給排水設備を備えることが難しい状況でした。
しかし、株式会社フードトラックカンパニーでは、独自開発した200Lタンクを積載することで、軽トラックサイズながらキッチンスペースでの仕込みを可能にした「キッチンボックス453」を開発し好評販売中です。詳しい情報は以下のページで解説していますので、気になる人は参考にしてください。
» 【キッチンボックス453】車内で「仕込み」調理もできる軽トラサイズのキッチンカー
1-5.飲食店営業などの営業許可が仕込み場所には必要です
2021年6月の改正食品衛生法施行により、保健所が営業許可を出す業種は全部で32業種になりました。東京都のように営業許可がないと「仕込み場所」として使えない地域では、この32業種の中から自分のキッチンカー運営方針に合ったものを選んで、営業許可を取得しなければなりません。
32業種のうち「飲食店営業」を選ぶのが一般的ですが、私が保健所に電話したときにおすすめされたのは「そうざい製造業」です。なぜなら、「そうざい製造業」の方が将来的にできる事業の幅が広がるからです。
キッチンカーの「仕込み場所」としては、「飲食店営業」「そうざい製造業」のどちらでも要件を満たします。「そうざい製造業」の営業許可を取得すると、さらに自分で作ったメニューを他の飲食店などへ卸販売することや、弁当・そうざいを道の駅などで販売することも可能です。このような点も頭に入れて、どの業種で営業許可を取得するかを決めましょう。
1-6.不明なことは保健所に質問して解決する
キッチンカー運営における「仕込み場所」の要不要や「仕込み」の定義については、都道府県によって解釈が異なります。例えば、東京都では営業許可を取得した「仕込み場所」が必要ですが、千葉県では仕込みのための営業許可は不要で、自宅台所で対応可能です。
調理工程のどこまでが「仕込み」に該当するかは、メニューにもよりますし、都道府県によっても判断が異なることが考えられます。したがって、不明な点はとにかく営業予定地域を管轄する保健所へ確認しましょう。私自身何度も複数の保健所に電話したことがありますが、どこの保健所もみなさん親切に分かりやすく教えてくれるので、安心して電話してください。
2.キッチンカー8種類の仕込み場所と準備方法
キッチンカーの8種類の仕込み場所について、それぞれの特徴・注意点・どのように準備するかについて説明します。前提として、仕込み場所の見解については各地域の保健所によってさまざまなので、自分の営業予定地域での状況についてしっかり確認することが必要です。
2-1.自宅を改装して仕込み場所にはできない
キッチンカーで販売するメニューの「仕込み場所」として利用するためには、「食品衛生法」に基づき保健所の検査に合格して、「飲食店営業」「そうざい製造業」などの営業許可を取得しなければなりません。自宅など住居スペースでは保健所の検査に合格できませんので、台所などを改装して「仕込み場所」にすることはできません。
また、保健所の人の話によると建物の用途が「住宅」の場合は、「都市計画法」の規制に抵触する可能性もあるとのことでした。どちらにせよ自宅を改装して営業許可を取得した上で「仕込み場所」にはすることは不可能です。
2-2.アパートをキッチンカーの仕込み場所に改装する
アパートの部屋を借りてキッチンカーの仕込み場所としようとしても、許可を取得できない場合があるので、注意が必要です。仕込み場所として使用するためには「食品衛生法」に則り、保健所の検査を受けて「飲食店営業」などの営業許可を取得する必要があります。
部屋の間取りによっては、シンクの数が足りないなどの理由によって営業許可を取得できない場合があります。また、自宅と同じくアパートの部屋を住居として使用している場合には営業許可を取得できません。自宅の場合と同様に「食品衛生法」としては要件を満たしているが、「都市計画法」の規制をクリアできずにアパートの部屋を仕込み場所にできない場合もあります。
さらに、賃貸物件の場合は、大家さんから仕込み場所として使用する許可をもらうことも必要です。このように許可を得るためにはさまざまな条件をクリアする必要があるので、仕込み場所として利用できるかを確認するために、部屋の間取り・図面を持って保健所へ事前相談に必ず行きましょう。
2-3.プレハブ・コンテナハウスなど利用する
例えば自宅の庭のスペースに余裕がある場合はプレハブやコンテナハウスなどを設置して仕込み場所としての設備を整える方法もあります。この場合も「食品衛生法」が定める営業許可申請の要件を満たし、「飲食店営業」などの許可を得られればキッチンカーの仕込み場所として使えます。
保健所の人に話を聞いた際には、プレハブでは直結直圧式の水道が設置されていないために、営業許可が下りないケースがあるとのことだったので、特に注意が必要です。プレハブやコンテナハウスの場合も、仕込み場所として使えるかを保健所に相談にいきましょう。
2-4.小さい飲食店の居抜き物件を借りる
居抜き物件とは、前のテナントが使用していた設備や什器が残っている物件のことです。前のテナントとの交渉次第では設備をそのまま引き継ぐこともできますので、そのまま使用して仕込み場所として活用する方法もあります。
設備が整っていればそのまま店舗として営業できるケースもあるので、仕込み場所からも利益を生み出せるようにすることも可能です。
2-5.知り合いの飲食店を使わせてもらう
もし知り合いで飲食店を経営している人がいれば仕込み場所として使用させてもらうのもひとつの方法です。ただし、注意したいのが営業許可の種類です。
例えば知り合いの店舗の営業許可が2021年6月1日以前に取得した「喫茶店営業」だとして、自分のキッチンカーの商材は「飲食店営業」に該当する場合は、保健所の申請がおりないこともあります。
※2021年6月1日の改正食品衛生法施行により、従来の「喫茶店営業」許可は「飲食店営業」または「調理の機能を有する自動販売機」許可に見直しされました。
2-6.シェアキッチンサービスを利用する
シェアキッチンサービスをキッチンカーの仕込み場所として利用する方法もあります。すでに「そうざい製造業」などの営業許可を受けたキッチンをシェアして使えば、必要な条件をクリア可能です。中には、キッチンカーの仕込み場所として営業許可を受けた施設をシェアできるサービスもあります。
現状では、シェアキッチンサービスは都市部に集中しているため、地方では思うように見つけられない可能性があります。上手く見つかれば、会員登録・月額費などが必要ですが、短期間の契約で利用できる場合が多いので、キッチンカーの仕込み場所として有望でしょう。
2-7.キッチンカー(移動販売)のフランチャイズに加盟する
キッチンカー(移動販売)のフランチャイズに加盟するという方法もあります。本部で決められたメニューしか取り扱いができなくなりますが、仕込み不要の商材で営業ができたり、本部指定の営業所を仕込み場所として利用できたりする場合もあります。
フランチャイズには、独自のメニューが作れなかったり、本部のルールに従わなければならなかったりと、自由に営業ができないというデメリットがあるのは事実です。一方で、商材の安定供給や仕込み場所の確保などメリットもあります。
2-8.仲間同士で共同の仕込み場所を使用する
キッチンカー仲間がいれば、共同で仕込み場所を使用することで家賃代などの固定費を折半するということも可能です。お互いにコストとしては非常に助かります。
ただ、何かトラブルがあった際の責任の所在や対応についてはしっかりと話し合っておく必要があります。大きな信頼関係があるもの同士の方が良いかもしれません。
3.キッチンカーの運営で仕込みが必要ない方法
仕込み場所を確保すると、別途固定費用がかかってしまう場合もあります。
そうならないように、仕込み場所を使用しないような工夫もできます。
3-1.仕込みが必要ないように材料を仕入れる
例えば、キャベツの千切りが必要なメニューであれば、カットキャベツを仕入れて使用したりして、本来は仕込み場所で行わなければならない「切る」という工程を省略する方法もあります。
3-2.仕込みが不要な提供メニューを扱う
既製品を仕入れて提供することで、仕込みを省略する方法です。
例えば、焼き鳥を販売したい場合は冷凍で仕入れてキッチンカーで焼くだけにするなど、仕込み場所を使わずに営業できるような工夫も方法のひとつです。
また、カレーなどのメニューであれば、カレーは温めるだけ、ご飯を炊かれた白米を宅配してもらい、それを使う形でキッチンカーを行うというものです。
4.キッチンカーの仕込み場所に関するまとめ
固定店舗としての開業費用を抑える目的で、移動販売という手段を選択する人もいるかと思いますが、仕込み場所の準備や手配に固定費用はかかってしまいます。
このような理由で当初予定していた提供メニューを変更する人もいます。キッチンカーでの営業には仕込み場所の確保がネックに感じている方が多いです。
ただし、地域によっては一定の基準を満たしていれば移動販売車の中で仕込みを行っても良いという地域もあります。
キッチンカー製作の前の最初の事業計画を立てる際に、仕込み場所が必要な提供メニューを販売するのかどうかを決めて、各地域の保健所で事前に確認しておくことが大切ですね。
また、固定店舗を持った時と、仕込み場所を持った時のコストには大きな差があると考えてください。確かに、固定費はかかってきてしまいますが、最小限の設備を備えた仕込み場所があることで、逆に便利な作業場所ができると考えることができれば、その分、売上を作ることができます。
ですので、最低限の設備を備えた仕込み場所と、例えば、そこに駐車場を安く借りられないかなど検討をしてみてください。破格の仕込み場所を手に入れている人が、安定した売上を作っているのも事実です。